まいまいげっとさま@Die Schloss〜幻桜城より

まいまいげっと様から素敵なSSをまた頂戴してしまいました!
今までにファイアーエンブレムでひとつ、FF6でひとつ、書いて頂きましたので、今回ははFF7から「ヴィンセントとユフィの楽しいコメディ」ということでお願いしておりました。
ヴィンちゃんがすごくいい味出してますよー!まいまいげっとさん、本当にありがとうございました!

■ Sleeping Beauty

「ほんっと、ボロ屋敷ねー」
「お前、いつも本当に容赦ないな」
「ほんとのこと言ってるだけじゃん。自分に正直なのよアタシ。あ、でもでも」
こういうところに隠されたお宝が、などと言いながら、自分の後ろにくっついてきょろきょろしているユフィに、クラウドはげっそりとため息をついた。
「遊びに来てるわけじゃないんだぞ? ここにはまだ、ひょっとして神羅の秘密がまだ隠されているかもしれないから、それで俺達は」
「はっははーん、またまたぁ〜、カタいこと考えない考えない♪」
渋い顔をして振り返る彼を軽くいなして、ユフィは朽ちはてて今にも崩れそうな壁を、
「お? なんだかここだけビミョーに色が違う? シロアリとかが食ってそうよねー、あはははは」
笑いながら、がんっ!とばかりに拳でぶっ叩く。その瞬間。
「ぎゃああ〜!」
「お、おいっ!!」
ぼこっ、という音を立てて彼女が叩いた壁は口を開け、勢いユフィはその中へ転がり落ちていった。
「おーい、大丈夫か〜?」
どうやらそこは、元々らせん状の階段だったのを、後に漆喰で固めたらしい。
当初はしっかりと固まっていたのだろうが、長い年月を経てやはり脆くなっていたのだろう。
(…トラブルメーカーの本領発揮ってやつか?)
それにしたって、
(ご都合主義だねえ、いやはやどうも)
クラウドは心の中で誰かに突っ込みながら、ギシギシ言う螺旋階段を下りていった。
降りていくにつれ、かび臭さがどんどん濃くなっていく。
本当に長い間誰も使わなかったのだろう、急なその階段を降り立った床には、
「…い、ったぁーい! んもう、こんなところに何があるってのよっ!」
どうやら上から下までご丁寧に転がり落ちたらしいユフィが、頭をさすりながらぶうぶう文句を言っていた。


…ついさっきまで、「ここにはお宝が」なんて言っていたのに、ユフィの言うことは天気のようにころころ変わる。
「どうしても」なんて言ってついてきたのは彼女のほうなのに、「ちょっとー、あんた! 女の子が倒れてるんだから、手を貸すくらいはしたらどうなのよっ!」
ぴーちくぱーちく、うるさいことこの上ない。
「…ま、開けてみるか」
呆れながらもクラウドは、前にある扉のノブへ手をかけた。
こういったことは日常茶飯事なので、もう慣れたものである。いちいち相手をしていてはこちらの身が持たないのだ。
「…鍵、は、かかってないみたいだな」
「ちょ、ちょっと…入るの、やっぱり?」
そんでもって、『いかにも何かありそう』な扉の前で、今ごろ怖気づいたらしい。
「当たり前だろ。神羅の秘密が少しでも」
「や、やだやだ! 入った途端に、中からお化けが『んばあ〜!』なんてことになったら」
「さっきまで『正体不明』とかをバカスカ倒してた奴が、今更何言ってんだ」
「それとこれとは別よぉぉ、あああー、開けないでぇぇ〜」
「うるさいっ!」
やっぱりもう一人、ティナかケットシーあたりを連れてくれば良かった。
他のメンバーも二人一組くらいになって、この神羅屋敷を探索しているはずなのだが、
(パートナーをクジで決めたのが悪かったよな…)
「お前、少しは静かにしろ! ガタガタうるさすぎだ!」
「あ、ひっどーい! 女の子に言う台詞?」
「頼むから黙ってろっての!」
今更ながら後悔しきり。とうとうキレてユフィへ怒鳴りながら、クラウドはその扉を開けたのである。
ぎ、ぎ、ぎいいいいい…なーんていう、なんともいやらしいきしみ音を立ててその扉は開き、『いかにも』な風にパラパラと積もっていた埃が落ちてくる。
どうやらそこは何かの実験室だったらしい。広い部屋の中央には手術台のようなものが、でん、とばかりに置かれていて、なのにその左横には何故か、
「「…樽?」」
総ヒノキ造りのでかくて丸い樽がこれまた異様な存在感を放っていたのである。
「…いかにも何か入ってそうなんだけど」
「梅干じゃないのか」
「アタシ、やっぱりアンタ嫌い」
「俺もだ。両思いで良かったな」

とかなんとか言いながら、こそっ、そろっと何故か今更足音を殺して、二人はその樽へ近づいていく。
「…変な匂いとかしないし…あ! これがひょっとしてお宝!?
京都名物キムチ八ツ橋とか入ってんのかも」
「お前の考えるお宝ってそんなモンか? 第一、キムチ漬けとかだったらかなり臭ぇぞ」
「うーん…そうかも。とにかく開けてみて開けてみて♪」
「…お前な」
やっぱり呆れながらも、クラウドはその平ぺったい蓋へ手をかけて、
「わぁ!?」
世にも恐ろしい叫びを途端にあげたものだから、
「ぎゃあ! な、何っ!?」
ユフィはつい、つられて驚いた。けれどクラウドは、
「へっへー、引っかかりやがった」
その蓋を人差し指でしばらくクルクル回し、ぽい、と投げ捨てて笑う。
がらん、などと音がして、その平ぺったい蓋は研究室っぽい部屋の床へ落ちた。
「ただ叫んでみただけだよーん」
「く、くくく…くぉのぉっ!!」

「はーはははー! お互い様だろお互い様っ! まあまあ、見てみようぜ」
怒りに顔を染めてつかみかかろうとするユフィを軽くいなして、彼はそう言いながら樽、というよりも桶の中を覗き込む。
で。
「…よく出来た人形ねー」
「ああ、まるでなんだか本当に人間が眠ってるみたいだ」

その中には、ちょうど膝を抱えたような格好で、その膝に俯いた顎を乗せ、こんこんと眠りについているような、そんな男の人形が入っていたのだった。
「…髭さえそればちょっとハンサムかも。アタシ好み〜。人形じゃなきゃ、カレにするのに〜」
「でもなんだかネクラそうだぜ?」
「アンタほどじゃないでしょうよ」
「何をう!?」

そこでまた、取っ組み合いに発展しそうになる二人。つくづく相性が悪いらしい。
でも、
「ん? 変な音が聞こえるよ?」
今しもクラウドの頬へ爪を立てようとしていたユフィは、ふと首をかしげてその行為を止めた。
「…ほんとだ」
クラウドもまた、構えを解いて首をかしげる。
すこここー、ふひゅるるるるー、文字であらわせばそんな風になるのだろうか。
かすかではあるのだが、やけに規則正しいその音は、彼らのすぐ近くから聞こえてくるような、そんな気がして、
「や、やだ! これ、人形じゃないよ」
ユフィは桶の中の人形へふと目をやり、叫んだ。
「…そうか。謎は全て解けた! これが神羅の秘密だ!」
「ほぉぉーんとぉぉー?」
「話の都合とページのアレってやつだ。まあ聞けよ」
疑いの眼差しで自分を見上げるユフィへ、クラウドは熱く語り始める。
「むかーしむかし、ある会社に一人の後継ぎ息子が生まれました。会社の社長はこの息子が幸福な人生を送るために、3人の魔女を呼びました。二人の魔女達は、それぞれ美貌とカネとコネ、そして才能を約束したのですが、呼ばれていないもう一人の魔女は、『この子は16歳の誕生日に研究室で解剖されて死ぬるだろうよ』といいました。それを聞いて残った一人の魔女は、『心配要りません。息子さんが研究室に入ってしまっても、皆が眠りに着くので解剖はされませんから。というわけでこの息子は何故か桶に入って眠りにつく羽目になったのでした」
「…で?」
「ま、早い話が」
「遅いわよ」
「はいはい、とにかく、こいつは眠ってるだけで生きてるって分かったんだから、起こしてみようぜ。何か知ってるかも」
「…どうやって起こすの?」
「いや、色々あるだろ? 幸いここは研究室なんだから、電気ショックとか水責めとか、薬を打ってみるとか」
…というわけで、二人はその人物を起こすべく、ありとあらゆる科学的措置を施したのだが、
「…起きないじゃん」
桶の中を水浸しにしても、電気ショックを与えてみても、その他(以下自粛)かの人物はいっかな起きようとしないのだ。
「…仕方ねえな。よし、これまでのは全部やめだ。新しい方法でやってみよう」
「い、いいわよ。どんな方法?」
いつになく真剣なクラウドに、ユフィも釣り込まれて真剣に頷いて…。

そして、桶の中で眠っている(?)彼は思った。
…さっきから何やら、俺の体が痛いし苦しい。
時々体の中をビリビリと駆け抜けていくこの感触は、昔神羅で受けた拷問にとても似ていて、だからこそ、
(…目覚めたくない。もう二度と)
余計かたくなに彼は思い、深遠な眠りの底へどっぷりとつかろうとしたのだが、
「…??」
「おおー! 起きた!」
唇に、何か柔らかいものが当たっている感触に、ふと目を開けた。
途端、全然知らない人間が嬉しそうに言う声も聞こえて、
「眠りの後継ぎ息子は姫の接吻で目覚める!科学の勝利だ!」
「何が科学だっ!」

…どうやら自分に「口付け」ていたのは、今、どたばたと埃を上げながら鬼ごっこをしている女性の方らしい。
「そ、そら俺がやっても良かったけど、寒いだろ? 野郎同士の『ちっす』なんてっ!」
「もしそうなったらスケッチして世界中にバラまいてやったわよっ!!」
…彼らは自分を目覚めさせるために「接吻」という手段を選んだらしい、が。
(…接吻したのが男でなくて良かった)
よっこらしょ、と、桶から出ながら彼はしみじみ思った。
本当に長いこと膝を抱えて眠っていたため、無理に伸ばすと体のあちこちがバキボキと嫌な音を立てる。
「…お前らが俺を目覚めさせたのか」
そして彼が問うと、二人はぴたりと鬼ごっこをやめ、おそるおそるこちらを見つめてくる。
「…俺はヴィンセント。ヴィンセント・バレンタイン。元・神羅の社員だった。
あいにく、社長に睨まれて窓際同然だったので、名刺の持ち合わせはないが
「はぁ…」
「どうも」
黙っているのもなんだかなー、なので、自己紹介をすると、二人はまたおずおずと頷く。
そこで、
「ひえ!?」
彼がユフィへ近づいていくと、彼女は思い切りのけぞって顔を引きつらせた。
「…俺に何か聞きたいことがあるから、俺を目覚めさせたんだろう」
長いこと眠っていたので、ちょーっと発音機能も怪しいらしい。
実験器具の入っている古ぼけた棚のガラス窓に映る自分は、髪の毛ぼうぼう
ヒゲびっしりなんである。それがぼそぼそとしゃべるもんだから、
(不気味がられても仕方ないんだが)
そう思いながらも、彼は続ける。
「俺のファースト・キスを奪ったお代は高くつくぞ」

途端に、ぎゃあぎゃあと悲鳴をあげながら部屋から逃げ去っていった二人を呆然と見送りながら、元神羅社員、ヴィンセント・バレンタイン(名刺無し)はまた思った。
(…冗談のつもりだったんだがな)

かくして、ヴィンセントの二度目の人生は冗談のように始まったのだった。


FIN〜


■ 著者まいまいげっとさまの後書き

とりあえず『ユフィにオモロくいじられるヴィンセントを』というリクエストを頂いていたはずで、でもそれにはやっぱり出会いから書かないとなー、とか思ってたら、出会いに至るまでのシーンで一話終わってしまいました…。
ご、ごめんなさいっ!! そんでもって、こんなモンでもご自由にしていただけたら本当に嬉しいです…ううう。いつかまた、この続きみたいなのを書けたらいいなって思ってはいるんですけど…リクエスト、ありがとうございました…ううう。
やっぱりもう一人、ティナかケットシーあたりを連れてくれば良かった。(2008年3月9日謹製)